精索静脈瘤手術後に妊娠した体験談 【費用・効果もブログで】

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この記事で解決できるお悩み

男性不妊ってどんな検査をするの ?
精索静脈瘤ってどんな病気 ?
精索静脈瘤の手術の体験談を読みたい !
精索静脈瘤手術について、費用は ? 痛みは大丈夫 ?
どれくらいの効果があるの? 子供はできるの?

この記事を書いているボクは男性不妊症と診断され、その原因となった精索静脈瘤の手術をしてもらい、不妊治療の甲斐もあって、第一子を授かりました。

誰しも自分が、あるいはパートナーが精索静脈瘤の手術が必要となったら不安に思いますよね。
専門家が書いた難しい記事だけでなく、リアルな患者目線の体験談も読みたいものです。

そこで自分の実体験を公開することで、精索静脈瘤に悩む方のお役に少しでもたてればということで今回の記事を書きました。

ボクは泌尿器科医ではないので専門的なことは書けませんし、あくまで個人のケースにはなってしまいますが、少しでも参考になれば幸いです。

それではどうぞご覧ください。

男性不妊とわかるまで

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価値観が多様化している時代、結婚しない、あるいは結婚したけど子供はいらないというのもそれはそれでアリだと思っています。

しかしながら、この記事を読んでいるのであれば、子供はほしいという考えをお持ちなのでしょう。
結婚した当初のボクもそうでした。

当時は不妊症だということを全く知らず、夢を描いていました。

不妊症とは

結婚して1年、これが1つの目安です。
日本産婦人科学会は、1年間の夫婦生活を経ても子供を授かることができない状態を「不妊症」と呼んでいます。

我が家も、いつの間にかこの1年をむかえていました。

最初は妻が産婦人科でいろいろ検査してくれましたが、これという原因は見つかりませんでした。

実は不妊症の原因の半数は男性側にあります。
妻側に異常がなかったため、ボクも重い腰をあげて人生初の泌尿器科に行きました。

反省なのですが、不妊症の場合には男性側から先に検査にいくべきです。男性の検査は精液検査だけですが、女性の検査はいろいろ体に負担がかかってしまいます。

泌尿器科での検査内容

医学科の学生は、必ず泌尿器科でも実習をしていますし、医師国家試験にも泌尿器科の問題が出ます。

ボクは (内科ですが) 医師ですので、泌尿器科がどんなところなのかはそれなりに知っているつもりでしたが、患者サイドで見てみると想像以上でした。

問診・診察

電話で予約し、「禁欲期間を2~3日設けてください」という指示を守ってはじめての訪問です。

実は泌尿器科の中にもさらに細かい専門がいろいろあって、その中で男性不妊症を専門にする先生は少ないことは知っていました。

そのため、家の近くの泌尿器科ではなく、男性不妊専門の泌尿器科を最初から選んでいました。

受付で渡された「男性不妊問診票」に答えていきますが、これは夫婦であることを前提としたものになっていました。

表面は一般的な内科的な項目が並んでいましたが、裏は不妊治療専門らしく、「性欲・勃起の状態・射精の状態・射精までの時間」などについての質問事項がズラっと並んでいます。

それを記入すると、看護師さんに呼ばれて個室へ。
そこであれこれと裏面の内容について聞かれます。
女性の方でしたが、いつもの仕事だからか、テキパキとしていたのが印象的でした。

そして先生の診察です。
見てそうそう、「典型的な精索静脈瘤です」と言われました。

超音波検査もし、これだけ大きい静脈瘤だと、精液所見もかなり悪くなりがちであり、妊娠が難しいのも頷けるようです。

不安な面持ちで、精液検査を受けることになりました。

はじめての精液検査

精液検査をするため、奥にある鍵がかかる採精室に案内され、紙コップを渡されます。
この中に精液をとるようです。

精液検査とは、精液の中に含まれる精子の「濃度・運動率・正常形態率・奇形率」を調べる検査のことです。自然妊娠するために必要な、十分量の「運動している精子」 があるかを調べています。

精液検査は「産婦人科」「泌尿器科」で可能ですが、どこでもOKというわけではなく、不妊治療をしている病院・クリニックを選ぶ必要があります。

病院内で採取・検査するのが一般的ですが、2,3時間以内であれば家で採取したものを持ち込んで検査してもらうことも一応可能なようです。

紙コップの中に射精したのはこれが初めて。
精液量も検査項目なので、すべてを紙コップの中に入れる必要があります。

紙コップには検体の取り違えを防ぐために、あらかじめ看護師さんが名前を書いたシールを貼ってくれていました。

採取後、看護師さんに声をかけてその部屋を出ます。

検査には1時間近くかかるようで、その間はいったん外出することができました。

そして予定の時間に戻ってきて、先生に呼ばれます。

重度精子無力症で妊娠は絶望的との診断

ツライ現実との直面

先生からは、大きな問題を指摘されました。

精子の運動率が8%しかなかったのです。
正常の方だと、40%以上あるこの数値が低いということは、実際に卵まで動ける精子がかなり少ないということを意味しています。

精子無力症、それも重度の精子無力症との診断でした。

先生の話では、運動率だけでなく精子数そのものもスレスレで正常範囲に入るものの下限に近く、実際に運動している精子の数 (精子数 x 運動率) は100万ちょっとしかないようです。

ボクは100万というのがどれくらいか正直ピンと来ていなかったのですが、自然妊娠を行うには1000万はないといけないそうです。

それでは人工授精 (子宮の中に精子を入れること) はどうでしょうか?
人工授精も、運動精子数は500万以上必要で、100万ちょっとでは全然ダメみたいです。

可能な選択肢は、顕微授精のみ (卵を取り出し、細い針を使って精子を入れた後に、受精卵を子宮に戻す方法) とのこと。

どうやら、ボク側に原因がある男性不妊であることがこのとき初めて分かりました。

男性不妊は、かなり重い言葉です。
結果を告げられたときは、言葉になりませんでした。

根本的な原因は精索静脈瘤

ただ、ボクの場合にはハッキリとした原因の候補がありました。
精索静脈瘤です。

精索静脈瘤は左にできやすく、ボクも左側は最も重いグレードと判定されましたが、実はこれは前から気づいていました。

精索静脈瘤自体は男性の6人に1人くらいとかなり多いものであり、中学生くらいからでき始めます。
特に悪いものではなく、ほうって置いても問題がないことが大多数です。

唯一問題となるのは、ボクのように不妊症になってしまった場合です。

精子は熱に弱いので、卵巣のように体内にとどめるのではなく、体の外の涼しい環境に長い進化の過程で精巣を追い出してきました。

ところが精索静脈瘤があると、精巣のまわりに血管があることで、温度が上がってしまい、精子へのダメージが蓄積される場合があるのです。

ボクの場合、精索静脈瘤が最も重いグレードになったことで、動くことができない精子になっていたようです。

さらに、自分では気がついていませんでしたが右側にも軽度の精索静脈瘤がありました。
右も左も暖められることで、健全な精子ができない状態だったのです。

ちなみにですが、精液検査はその日の体調でも影響を受けるので何回かやった方がいいです。ボクはこの後もやりましたが、初回の8%が一番良く、基本的には3~6%程度の運動率しかありませんでした。運動率1%だったこともあります。

精索静脈瘤とは何か?

精索静脈瘤とは何か、ということは専門の先生が執筆された記事もいろいろありますので詳しくは述べません。

ごく簡単に説明すると、精巣からおなかに戻る静脈が停滞して血管が膨らんだ状態で、そのため睾丸の血管がボコボコしています。

交通渋滞のようになっていますので、普段は精巣のまわりをすぐ通り過ぎるのに長い時間がかかり、その分精巣の温度が上がってしまうのです。

精索静脈瘤の患者さんは多い

精索静脈瘤の8割は左側にできます (左と右では、おなかの静脈への入り方が違うためです)。

精索静脈瘤自体は6人に1人の方にありますが、そのうちの多く(75%)は正常に精子をつくることができます。

一方で、男性不妊症の患者さんではその4割に精索静脈瘤があります。

つまり静脈瘤があること自体は特に珍しくないですが、男性不妊の方には特に多いということになります。

精索静脈瘤の治療の基本は手術

精索静脈瘤の歴史は古く、中世ヨーロッパの記録にまで遡ります。

「不妊カップルの男性の陰嚢には憂鬱な血液が溜まっている」と書かれています

精索静脈瘤の手術が世界で初めて報告されたのは今から150年近く前の1885 年です。

主な治療は、精巣の静脈をしばる手術(精索静脈結紮術)になります。
しばることで精巣近くに余計な血液がいかないようにして、精巣の温度を下げることができます。

精索静脈は長い静脈なのですが、(立った時に) 上側になるへその高さで縛る「高位結紮術」と、下側になるそけい部でしばる「低位結紮術」などがあります。

近年では、細かい血管まで確実に処理できること、再発・合併症が少ないことなどの理由から、そけい部で結紮する方法(低位結紮術)が使われることが多くなっています。

特に、顕微鏡下で行う手術方法は、(お腹をあける手術と比べて) 体への負担も少なく、日帰り手術も可能です。

ただし手術の難易度はかなり高いので、専門の先生が少ないのが課題です。

精索静脈瘤手術の内容

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事前検査~予約

ボクがお世話になったところでは、顕微鏡下で行う日帰りの低位結紮術を採用していました。

術前検診として、各種採血やレントゲン・心電図検査があります。

その後に日程調整をしますが、平日の午前でおよそ2週間待ち、土曜日は2ヶ月待ちとのことでした。
同じ病気で悩む男性の方はとても多いのだなということが分かります。

なるべく早く手術をしてほしかったので、平日の午前の枠を予約し、長々としたリスクの説明文書にサインをして帰宅しました。

手術

手術当日は9:30頃にやや緊張してクリニックに入りました。
すぐに案内され、腕の血管に点滴を入れられます。

これは水分を入れるということではなく、何か緊急事態が起きた時にすぐに血管の中に薬を入れて迅速に対処するために、あらかじめ血管を「確保」しておくという意味合いが強いです。

手術台にのり、先生が超音波で静脈の走行を確認して手術開始です。

一番痛いのは最初の麻酔です。

足のつけ根側から、やや太めの針を体と水平にした状態で刺されます。
この数分はがまんです。

先生もこの麻酔は痛いということをおっしゃっていました。

手術部位を消毒後、切開が始まります。
鼠径部を1 cm程度切りますが、これは特に痛みはなく (麻酔が効いているので)、傷も術後はほとんど分かりません。

切開したあと、筋肉をどかして、精索などを引っ張ります。
この引っ張られるときに、痛みはないのですが、微妙に嫌な気持ちにはなります。

血管を縛っているときには特に何も感じません。

手術の様子をモニター越しに見せてくれる施設もあるようですが、ボクがお世話になったところではそのようなことはなく、天井のライトを見ているだけでした。

手術時間は1.5時間ほどです。

ボクの場合は、この際に左側だけでなく右側の軽度の静脈瘤も手術してもらいました。

左が終わり次第、次は右への麻酔で、これはふたたび激痛です。

ただ、右に関しては左を経験したからか、手術はもう慣れたものでした。

ちょっとつらかったのは背中で、両方合わせて手術台に3時間近くも載っていたので、最後の方は背中が痛かったです。

手術当日その後

午前10時に始まった手術は13時すぎに無事に終わり、超音波検査で静脈瘤がないことも確認できました。

ただこの頃から麻酔が切れ始め、違和感が出てきました。

睾丸を軽く握られているような違和感が出てきたのです (男性ならお分かりですよね?)。

先生の説明では、手術によって血液の流れが大きく変わったので、一時的にそういう症状が出る方はいるとのことでした。

少し休んで、14時すぎにはクリニックを出て帰路につきましたが、家についたときには痛みは「やや力を強めて握ったような」感じに増強していました。

病院からもらっていた痛み止めを飲んで寝ましたが、その夜は苦労したのを覚えています。

手術翌日

翌朝、ふたたび先生に傷あとを見てもらい、問題ないのでシャワー可の許可が出ました。
その場所にはっていたシールは毎日取り替えるようにと言われ、たくさんもらいました。

痛みについてですが、睾丸を握られているような違和感はこの時までには消失していました。
手術後の12時間くらいは我慢が必要ですが、それ以降はOKでした。

手術1週間後

手術1週間後に泌尿器科を受診し、傷をチェックしてもらいました。

回復は順調とのことで、この日に抜針になりました。
抜針後はシャワーだけでなく入浴も可能になっています。

手術の費用と痛みについて

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手術費用はおよそ10万円

手術にかかる費用ですが、以前は日帰り手術は保険適用外であり、30万円前後したそうです。

しかし2018年からこの手術にも保険が適用されるようになったので、3割負担で負担ですむようになりました。

手術費用はおよそ10万円ということになります。

さらに、月の医療費が規定の額 (8万円が目安ですが、これは収入によって変わるので確認が必要です) を超えた場合、高額療養費制度の適用になり、ひらたく言えばあとでお金が戻ってきます。

手術後の痛みについて

手術当日の長時間の移動はほぼ不可能で、最初は結構歩幅を短く、ゆっくり歩かないと切開部に痛みが出ます。

ただそれは数日で終わり、普通のスピードで歩くことはできます (小走りは難しい)。
ぶつかると痛いので、満員電車なども避けたいです。

もちろん事情が許せば術後数日はお休みをとった方がいいとは思いますが、ボクの場合は手術翌日から仕事 (デスクワークメイン) ができました。

精索静脈瘤治療後の効果

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気になる治療効果ですが、1ヶ月目・2ヶ月目にはあまり効果はなかったものの、3ヶ月目には運動率20%まで改善しました。

これまでずっと5%程度だったことを考えると、これは大きな前進です。

ただ正常値は40%以上となっており、改善したとはいえまだ正常よりも下回っていました。

精索静脈瘤は、精子を温めることでダメージが蓄積されています。
その精子を無理やり顕微授精しても、それほど成功率が高くないということが分かってきたそうです。

ボクは今回手術をしましたが、3ヶ月の時点では残念ながら運動率が正常の方と同じになるということはありませんでした。

しかし手術によってDNAのダメージ源は確実に取り除けているので、顕微授精の成功率も上昇することが多数の医学研究から分かっています。

そこで顕微授精を手掛ける産婦人科にいき、やっていただくことにしました。

経過は省略しますが、結果として1回目のトライで成功し、第1子を授かることができました

また、この産婦人科で行った5ヶ月時点での精液検査では、運動率が30%近くまで上昇しているので、もしかしたら2人目は自然妊娠も可能かもしれません。

まとめ

最後に、今回の内容をまとめます。

  • 不妊症の半数は男性側に原因がある
  • 男性不妊で最も多いのは精索静脈瘤
  • 精索静脈瘤手術は日帰り&保険適用で10万円
  • 精液所見は改善したが正常には戻らなかった
  • 精子へのダメージ源は手術により確実に取り除かれ、顕微授精の成功率は大きく上がる

精索静脈瘤の手術は誰しも不安ですが、精液所見がそれほど改善しなくても、顕微授精はより成功しやすくなります。お子さんと会えることを信じて、手術に踏み切りましょう。